「時間の芸術」である音楽の演奏は「自発性」を要するものだと考えています。母親の胎内で規則正しい生の鼓動を感じ、この世に生を受けた瞬間から人間にはリズム感が備わっているといわれます。小さい子どもはリズムに身体を乗せることが大好きです。しかしピアノを弾くことは座っている状態なので身体をノせるというより、目から耳から得た楽譜からの情報を指をコントロールして音にすることで「リズム」として成立します。拍子やテンポといった一定の刻みの中にリズムを乗せることには自発性が必要だと考えています。このことは、はじめから当たり前のように出来てしまう人もいる一方、のんびり屋さんやせっかちさんなど弱冠気質的なものに起因することもあるのですが訓練次第でどうにもなるものです。音楽を奏でる女性には「テストステロン」という男性ホルモンが音楽を演奏しない女性より多いという研究結果があるそうです。これは攻撃性を増すものです。たとえば柔道やレスリングなど試合前の女性選手の表情は凛々しくて険しいのにインタビューなどでは穏やかな表情になっているのも、このホルモンが分泌されているのだと思います。話がそれましたが、ヒトって、目の前のことに真剣に打ち込む時にはその精神状態によって分泌される神経伝達物質が異なることを思うと、「うちの子はリズム感が悪くて」「テンポ感がない」などという言葉はナンセンスに思えます。だれでも真剣に音楽と向き合っていれば、自ずと豊かな音楽を発することができると思うのです。 そして何より楽譜に書かれた音符の羅列から何をどうやってしたら美しいか、楽しいか、悲しいか、時々笑いもありながら楽しく自発性を持った音楽を奏でられるよう指導しています。